EC通販の事業計画作成法~その2

前回の続きで、EC通販事業における「事業計画作成法」を整理しておきたい。前回は序文のようなものだったので、今回はもう少し踏み込む。

基本的な考え方

 前回に書いた基本戦略が決まったら事業計画を構築する。事業投資として、いつペイアウト(収益が出る経営状況になること)ができるか計画に盛り込むのであるが、3年ぐらいを目途にするのが良い。
例えば初年度顧客ゼロからスタートする場合、完全な投資先行となるのでその負担を小さくするためには、モール&自社サイトでの売る仕組みを整え、SNSなどで集客をして、自社サイトの顧客3,000名を越えた時点で、事業拡大を決定すると成功しやすい。3,000名の顧客がいれば、1日5~10件くらいの注文(月間100~200件程度)が見込めるので、人件費までは難しくとも関連の経費が回るくらいにはなるので気が楽だ。客単価が5,000円なら、50万円~100万円/月商程度の規模。
もちろん、早くペイアウトできればそれに越したことはないが、1つの事業を軌道に乗せるにはそれなりの時間が必要で、EC通販の場合なら3年はみておきたい。逆に、投資期間が長いと本業の経営に影響を及ぼすことになる。3年たっても採算がとれない場合は、撤退することも考えて計画を立てる。もしくは採算の取れる規模での維持も一つの手法ではある。

それでは、どのように事業計画を立てたら良いのか、具体的に見てみよう。

(1)事業規模を決める

 事業3カ年計画で、どの程度の売上げ目標を達成するかの事業規模を設定する。基準の1つとして、本業との比率があげられる。本業の20~30%程度の売上を目安とすると良いと私は思う。
少なくとも、それだけの売上げがあれば、本業をある程度支えることができる。
実際に単品ECの場合、商品と販売方法によって売上げ規模がある程度限界がある事は先行社の例でも明らかである。サプリや化粧品の場合、最大でも1社200億円前後の売上高が最大の事業規模であることから、無理して売上を伸ばすことが利益を失うこととなるため、分社や別ブランドや別商品で取り組むことが多い事業だ。

(2)販売・経費計画を試算する

 例えば、採算の取れる規模での維持と上述したが、先ずは単年度の目標値を設定する。本業の売上げが3年後に年商10億円と仮定する。
新規事業としてのEC通販の3年後の目標を、その30%の3億円と設定。3年で3億円を達成するには、単純計算では初年度1億円の販売目標ということになる。実際は既存客のおかげで年度を追うことにより売上は増加する。
「1億円の総販売額を得るには、何人の顧客が何回購入する必要があるか」という具体的な販売計画が必要になる。
仮に、単純に客単価を1万円とすると1万人の購入客が必要になる。その際、初期購入者に比べ継続購入者の購入単価が高くなること、継続購入する人の率や継続購入される期間が商品により異なることなども考慮する。

次に、販売数値に対する原価、経費項目を想定する。原価・経費項目としては、次の項目があげられる。
①商品原価(生産、仕入れなどの直接原価)
②販売促進費(サイト制作費や広告費用、カタログ制作や印刷費、販売促進関連の発送費)
③配送費(商品の配送に関する費用)
④通信費(電話の問い合わせ、フリーダイヤルなどの諸経費)
⑤コンピュータシステム費(フルフィルメントや顧客分析などにかかる費用)やサーバー費
⑥販売手数料や決済手数料

⑦人件費(通信販売にかかわる人の人件費)
⑧その他(事務所経費など、他の諸経費)

詳しくはこちらのエクセル(有料版)をご利用いただくと規模感の想定は簡単にシミュレーションできる。
(※こちらはNOTEブログの有料記事になります。)

さて、
原価設定の際には、次のことを考慮に入れる。1つはEC通販の「3・3・4の法則」(もしくは「1・5・4の法則」)。つまり、商品原価を30%(10%)に、販売促進費を30%(50%)に、その他販管費と利益を40%に収めるという法則を参考にする。
その他の販管費が20%なら、営業利益が20%となる、という具合だ。なお、顧客数が増えて、既存顧客重視で売上拡大を目指さない場合でも「3・2・4・1」、要は商品原価が変わらず、広告を含めた販売促進費が20%、間接組織(管理スタッフなど)の拡大や商品の基礎研究等が増え、また物流関連費用の高騰により間接経費が40%、そして営業利益を2桁残すという事業設計だ。
更には通販の業界平均値を参考(詳しくは依然の記事をご参考に)としてみると、その違いは主に商品原価が高く、販売促進費(宣伝・広告費)の比率が低いということである。EC通販ビジネスが安定すると、効率的な販売促進活動が実施できるようになり、CPO(コスト・パー・オーダー:一注文に対する主に広告費用、CPAも同様)も低く抑えるノウハウが身につく。もちろん、既存客がいらっしゃるいという事が何よりの強みになる。

従って、販売促進投資が少なくなり、全体に対するその比率が少なくなる。もちろん販売促進費の比率が低下すれば、その分だけ商品原価を高くしても事業が成り立つわけである。その平均値は仕入れ販売かDTCか、総合ECか単品EC(通販)の違いによるところが大きいのではあるが。

いずれにしろ、新しくDTC・単品EC通販ビジネスを実施する場合は、まずは「3・3・4の法則」にて設計されることをお勧めする。

(3)4つの重要事項ですべて語れるか?

 単品ECの事業計画を策定する際に以下の4つの指標ですべてが語れるとも言える。規模感と直接利益(私は通販利益※と呼んでいる)。
①新規顧客開発の指標:CPOやCPA
②客単価:新規やリピーター
③EC通販原価率:商品原価に受注費+同梱物費用+配送費+支払手数料
 ※売上から③を引いた数字が通販利益となる
④リピート回数

自社の顧客を思い描き、新しい顧客に出会うための経費を想像し、その時点とリピート時の客単価、そして商品を届けてお支払いいただくためのトータル原価、そして何よりリピート回数である。売上規模を設定する場合には稼働顧客(年間で1回以上、ご購入いただく顧客数のこと)が重要で、言い換えれば、客単価とリピート回数を掛ければ年間LTV(顧客一人当たりの年間の購入金額)なので、稼働顧客数と年間LTVを掛ければ年商となる。

 全てに工夫が必要ではあるが、特に販売社が全て決められる単品ECでは客単価の誘導が重要である。何故なら1,500円程度の健康食品でも家族やご夫婦で同時にお使いいただければ、客単価は2倍の3,000円となり、そのフルフィルメントコストはほとんど変わらず、CPAが6,000円なら2回で売上と顧客開発費用はイーブンとなり、EC通販原価が50%なら、4回目以降で利益が発生する。このように4つの指標で考える。通販事業試算表でシミュレーションをしてみれば、必要な商品生産数も配送回数もすべて明らかになるので、物流規模や次に必要なコンピュータシステムの変更なども設計でき、顧客をもてなすCRMで重要な施策さえ思いを巡らすことも可能であるからだ。

今回はここまで。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 次回は「商品」×「顧客」×「メディア」に触れたい。