EC通販の経営指標
前回は事業の面からEC通販の特徴を記載したが、今回はPL面等から特徴を探ってみる。(公社)日本通信販売協会が以前に行った調査によれば、通販事業にかかる費用と営業利益は下記のようになっている。これらの経営指標などから小売店経営との違いを分析すると、EC通販の経営には、次の7つの特徴があげられる。
(1)商品原価率が低い
EC通販の最大の経営特徴は、商品原価率が低いことである。資料によれば、平均商品原価率が39.6%となっている。一般の小売業が70%台であるのと比べると、通信販売の商品原価率は30%も低い。ただし通販のこの数値は(公社)日本通信販売協会に加入して軌道に乗っている企業の数値である。いまからEC通販を開始する企業にとっては、もっと商品原価率を低くしないと成功はむずかしいだろうか?
そして蛇足ながら店舗は卸価格で商品が入り、一部の業界では未だに返品自由など厳しい条件が付帯されている。EC通販には「3・3・4の法則」「1・5・4の法則」と呼ばれる法則があることを以前に書いた。これは「商品原価率を3割(1割)、販売促進費を3割(5割)、その他の経費と利益を4割に収めるのがよい」とする法則である。つまり、とにかく原価を低く抑えること、もしくは商品の付加価値を高め十分な利益を含む販売価格を設定することが、EC通販を成功させる秘訣の一つなのである。その理由は、商品価値を消費者に理解してもらうための説明費用として広告販促費がかかることを理解する必要がある。ちなみに商品原価を低く抑えるには「独自性の高い商品で高い価格設定」をすることが重要だ。商品原価を低く抑える例として、「大量仕入れ」(仕入れ原価が低い)、「ジュエリー」(利益率が高い)、「化粧品、健康食品、ダイエット食品など」(高付加価値商品)、「通信教育、資格講座など」(サービスによる付加価値の提供)などがあげられる。
(2)広告費(販売促進費)の比率が高い
EC通販は基本はリアルの売場がなく、販売員がいない。サイトや販促が売場や販売員のセールストークなどの代役を果たしている。そのため、当然他の事業とくらべて多額の広告販促費が必要になる。通常、広告というと商品告知や認知のための活動を指す。しかし、EC通販の場合、商品の告知や認知というより、販売するための活動を指し、販売促進そのものだ。前述の資料によれば、通信販売業者の平均の販売促進費は20.3%となっている。統計はあくまで(公社)日本通信販売協会の会員平均なので一般企業は実際には30~50%はかかる。新規にEC通販に参入、あるいは新商品を導入する企業では100%超にも達することがある。
別の視点で言えば競争激化により過去に比べ販促費が高くなり、効果が出にくくなっているともいえる。この販促費であるが、一般の小売業の販売促進費は2~3%である。この数字と比較すると通販業界の数字は圧倒的に高く、それだけ危険であるといえる。安い販促費で販売できれば、その残りは利益に回すことができる。逆にたくさん販促費をかけても、売れなければ販促費倒産になりかねない。また今後は特に目指すべき事業規模に合わせた経営や販促費の使い方、出来る限り販促費がかからないSNS等でのコミュニティ形成も重要だと言える。
(3)社員1人当たりの売上げが高い
販売員を置かないEC通販は、少人数で営業ができる。その分、社員1人当たりの売上げが高くなる。EC通販業の1人当たりの年間売上げは5,000万円~1億5,000万円くらいであるのに対し、一般の小売業、例えば大規模小売業では8,000万円、地方百貨店では6,000万円強しかない。当然、経費に占める人件費の比率もEC通販のほうが低い。
(4)商品によっては返品率が高い
商店で商品を購入する場合は、現物を見て購入するため返品は少ない。これに比べEC通販は、ECサイトやカタログに掲載された内容を見て購入するので現物を十分見ることができない。したがって、色や形に商品価値がある商品の場合、受け取った際に、自分の期待していた商品と内容が異なると返品という事態が起きる。ECサイトやカタログの表現に過剰な期待を高める表現や、見栄えが良い写真で煽ることを控え、商品の質を良くすることや、注文した品がすぐに届けば、まだ気持ちがホットなので、返品率は少なくなる。
EC通販の返品率は(公社)日本通信販売協会のデータでは2.4%となっている。この数値は、協会会員企業の平均値であり、衣料品や雑貨販売企業の数値と食品や化粧品企業の中間といえる。実際には売上げ上位大手の衣料品・雑貨通販の場合5~10%になる。返品を処理するには大変な手間とコストがかかる。そのため、衣料品・雑貨通販企業にとっては、返品率を低くする努力が極めて重要である。
それに対し、食品となると返品が少なくなる。日本人の特性なのか開封して味が悪いといって返品になるケースは少ない(決して返品が少ないことが良いことではないので注意は必要)。企業側も開封後の返品を断っていることも一因だが。EC通販をはじめる企業にとっては、返品を最小に抑える工夫を販売開始前に措置し、返品による経費発生を想定し経営計画を立てる必要がある。
この返品率であるが、一昔前によく言われたことは、ラジオショッピングは以外と低い、である。ラジオ局や紹介するパーソナリティヘの信頼性が高いこともあるが、ラジオショッピングではヒット商品など「よく知られている商品」が安い価格で通販されているため、現物を見ないで注文しても、受け取ったときの商品ギャップが少ないことが理由として考えられる。パーソナリティの信頼性などは別メディアでも参考になるのではないか?更にアパレルや靴では返品が前提で、複数を試着して気に入った商品のみを買い取り、もしくはサブスクリプション・コマースとしてレンタルして、不要なものを返品するなどの動きもあり、商材やビジネスモデルとして考慮する必要がある。
(5)物流費用が高い
EC通販では、購入された商品を配送しなければならない。その費用もばかにならない。前述の(公社)日本通信販売協会のデータでは、物流費用は平均9.2%かかっている。商品の1個当たりの一般流通による配荷コストと比較するとお客様に手渡される1件あたりを300円から500円とすれば確かに割高に感じるかもしれない。したがって重量、サイズのかさむものや生ものをクール便で送らなくてはならないなど形態や商品開発時点で出来るだけ送料のかからない方法を考慮して商品を作ることから考える必要がある。
昨今の物流費用の高騰や再配達問題も記憶に新しいし、そういう意味では届けるための物流費をだれが負担するかが問題になる。顧客サービスの一環として、企業が負担するのが本来の姿だろう。しかし、低単価商品や価格競争に伴う低コスト商品の場合、商品の利益のなかから、物流コストを捻出するのがむずかしくなってきている。そのため、送料を顧客に一部または、全額負担してもらう方法を併用している企業もある。経費として吸収できるならば無料がベストであることはいうまでもないが、一部顧客負担を余儀なくされる場合は一定金額以上購入する場合を無料とする方法がベターである。
例えば、5,000円以上の購入者を送料無料とすると、5,000円未満の顧客が減少し、5,000円以上の顧客が増加するという、顧客の購入単価アップにつながるというメリットがある。どの金額でもって送料無料とするかは、購入単価を分析し、戦略的に実施することが必要である。更に顧客優遇策としてアマゾンプライム会員ではないが、自社の一部の優良顧客のみは無料サービス(定期コースの一律無料ではなく)を実施できるシステムをお持ちなら、優良サービスになる可能性は高い。顧客優遇策として、VIP会員は送料無料や半額、一部の負担のみ。更に送料込みの一定額の頒布会(サブスクリプション・コマース)も拡大している。この送料問題から商品的には薄くて嵩張らず、普通便で送れて、かつ友人や知人に配布もしやすいパック出汁商品やネコポス商品も別観点では頷ける。
(6)代金回収日数がメーカーからすると現金化が短いが小売店に比べれば長い
小売店では商品と引き換えに現金回収ができるが、EC通販の場合は、後払いなどの方法で回収することが多い。そのために代金回収までに時間がかかる。過去は先払い方法で販売する企業もあったが、最近は顧客への利便性を考えて代引き(代金引換)や料金後払い(債権を第三社に渡す手法も含む)が主流になってきた。EC通販企業にとっては、前払いのほうが確実で都合が良いのだが、購入者にとっては手間がかかり面倒になる。
実際、歴史を紐解くと、代引きや後払いの導入によってEC通販の購入率は増加してきた。もちろん換金性の高い家電製品や時計、金貨などは先払いかクレジットカード・代金引換で実施する必要がある。取扱ジャンル別にみると、「単品」のほうが、「総合」に比べ「一括後払い」の占める割合が多い。また、メーカーとくらべた場合、EC通販は現金収入であることや、受領後早い時期に支払われるため、代金回収日数は短い。
(7)コンピュータ・システム費用が高い
EC通販は受注や配送、代金回収、さらに顧客管理まで、一貫したコンピュータシステムで運用しないとビジネスが成り立たない。そのため、企業規模に比したコンピュータ・システムが必要になり、その分のコストがかかる。(公社)日本通信販売協会の会員企業のコンピュータ・システム関連費用は3.5%となっている。小規模な小売店では必要はないコンピュータが、EC通販では貴重な戦力として大活躍している。コンピュータは企業規模にあわせて、容量を拡大することで、規模にあったものが使用できる。そのほかには、通信費に関してはフリーダイヤル(通話料着信者払い)の設置がEC通販の普及に大きく貢献していることはいうまでもない。
フリーダイヤルの設置は91.6%にも達している。また、携帯電話からの受注を受け付けている企業は78.4%で8割近い回答となっている。申し込みや問い合せにかかる電話代として負担になってくるが、今後はインフラの発展によりコストが下がるなどの変化があるであろう。
初期は安価な月額制度のカートシステムを自社の仕組みやスタッフ、もちろん商品とのマッチングを考慮して使用するのが望ましい。毎年、進化をしており、海外製のカートシステムでの日本国内で大きくシェアを伸ばしているサービスもあるので、複数を検討されて、提供会社やそのスタッフ、更には採用企業にもヒヤリングをかけて選定されることをお勧めする。特に単品EC(D2C)のサブスクリプション型に適したカートシステムは日本国内には多いので、きちんとリサーチされると良い。
続きは企業研修のテキストでも良くご利用いただいている弊社のテキストで。