EC通販から撤退する理由

先週は「EC通販実施の理由」として、新規参入や新規事業や新ブランドなどで、大手モールや無料などのカートシステム利用が極端に増えていることを書いた。今回はその逆の視点で撤退する理由や、今や放置状態となっているEC通販も多いのではないか?その理由を解き明かしながら、反面教師的な学びを進めたい。

撤退した企業を分析すると大きく次の7つの原因

EC通販業界から撤退、休止、廃業した企業は決して少なくない。EC通販の専門企業だけではなく、大手百貨店や新聞社なども一時期のカタログ通販から撤退を余儀なくされている事にも共通の理由が複数あるので。規模感や資金力、他事業で顧客が居てもEC通販事業でそのまま成功するという事が、そうそう簡単ではないことの、何よりの証明であろう。
撤退した企業を分析すると大きく次の7つの原因に分類される。

(1)戦略性がない。無計画である

 事業計画もないままにスタートして失敗するケース。単なるプロモーションとして安易に実施した場合。EC通販は事業に参入する際、戦略を立て、その戦略にのっとって実施しないと失敗する。戦略とは、競合などの市場分析を行い「どのような対象に、どのような商品コンセプトで、どのように販売するか」などを、明確にすることである。

 企業が参入するケースでは少ないと思うが、その中身やスタンスの基本が違っているという事は目にする。ましてや個人商店などでこのような計画を立てたことが無い、と言う方はこの機会にチャレンジすることが自社の経営を見直すことにもつながる。

(2)過剰な投資をした。回収ができない

 EC通販は小さい規模のテストマーケティングをくり返して、その反応や反響をチェックし、さらに大きな方法を導入するという科学的な手法で展開する方法が好ましい。当初から膨大な投資を行い、強気でスタートすると、結局回収できなくなり、事業を撤退せざるを得なくなる。大手企業の過剰投資による失敗は多い。
 世にでる商品の80~90%の商品は生き残らないというモノ余りの時代であるので、一度チャレンジした商品は改善の余地がないのか?モールであれば面取り商品として残す。自社サイトならクロスセル商品として残す。
次期商品は原価回収が見えた時点で次を投入するなど、多少は慎重な姿勢も必要。

(3)商品力が弱い。商品自体にEC通販で買う理由がない、価格に魅力がない

 EC通販にかかわらず何よりも販売する商品に魅力がなければ売れない。「店頭で売れ残っているから……」などというその場しのぎの発想でEC通販や越境ECをしてはいけない。店頭で売れ残るほどの魅力しかない商品が、EC通販や外国で売れるはずがないのである。さらにEC通販は店頭がないため、ふらっと立ち寄って購入するというラッキーは皆無といえる。

わざわざサイトにアクセスして必要事項の入力や、またアナログでも電話やファクシミリで注文してもらう必要があることを理解し、その手間に見合う商品やサービスを提供する必要がある。たとえば工場直送、限定数量の商品、オリジナル注文品などの工夫が必要だ。

注文をいただくためにはEC専門企業でさえ、お客様に電話をするということもサービスの一環として排除すべきではないと考えられる。市場のニーズをつかみ、生活者の立場に立って、価格・商品・サービスなどに魅力のある商品を提供しないとEC通販では売れない。

(4)営業活動(販売促進策)で失敗する

 動画が豊富で見た目には素晴らしいサイトや立派な通販カタログをつくることに大金をかけ、商品企画をおろそかにした失敗。メールマーケティングだけ行ったり、いいかげんなリスト(他社同梱同送サービス)を使って大量にDMを出したものの、不着郵便物があったり、レスポンスもきわめて低く、膨大な販促費負担となっての失敗。

さらに、継続購入の仕組みや仕掛けを取り入れず、せっかく獲得した顧客を失うなど、適切な販売促進策をとらないで失敗して撤退するケースも多い。商品とオーディエンス(情報の受け手)とクリエイティブと言われる販売促進の基本項目を理解する必要がある。EC通販に向く商品であっても、理解度の低い見込み客に案内するのか、数回購入している人に案内するのかによって同じ商品でも表現が変ることは想像できると思う。また表現方法で反応率が大きく変ることも理解する必要がある。

(5)EC通販を好きな人がいない。人材がいない。わからない

 EC通販に携わる人材がいないこと。まずはEC通販を好きな人がいるかである。好きこそ物の上手なれ。お客の立場になり商品開発や広告作り、ECサイトやカタログを作ることが求められるので、担当者は、販売経験や営業の担当者であった経験があることが望ましい

担当者に「専門家がいない」ことや「やる気がない」と失敗する。EC通販を成功させるなら、業務に携わる人のなかにEC通販の専門家がいることが必要である。もし居ないのならば、専門家の指導を受けて導入することが肝心である。EC通販は「ダイレクトマーケティング」という、科学的なマーケティング手法を使って販売するもので、素人のモノマネでは失敗しないのが不思議なくらいである。成功したいのなら、ある程度のおカネを払ってでも、専門家の指導を受けるべきである。もしくは時間をかけて経験を積み上げるかどちらかである。

 (6)デジタル・トランスフォーメーションに対応できない

 従来のアナログ通販の成功体験に基づき、新規顧客は新聞やTVのみ、リピートはカタログやDMやアウトバウンドの電話のみという活動では、生活者はスマートフォンで気軽に注文する時代である。また音声だけで買い物ができるスマートスピーカーの登場やLINEを始め新しいプラットフォーマーでもEC利用の拡大、更にはメルカリなどのCtoC市場の拡大など。販売者である企業がデジタルシフトを出来ずに、旧来のコンピュータシステムと分厚いカタログを抱えたまま、撤退していくケースも大手企業でさえ以前は散見された。DXは毎日進化し、EC通販市場がEC化率の高まりして他分野のプロたちが事業や支援サービスで参入してくるので、プロの戦いの様相を呈してきている。

(7)人材不足

 最後に最近増加しているのが(5)と(6)の複合要因としての人材不足。デジタルの知識と小売(コマース)の知識を持つ人材は限られている。EC通販業界だけに限られたことではないが、一般の小売業や飲食業のように外国人に頼れる仕事が決して多くはないEC通販にとっては切実な問題である。人材確保という点でのEC通販業界内でのM&Aが活発になってきているのも頷ける。また知識と実行力を兼ね備えた現場責任者の退職による事業停滞や後継者不在などの問題も含めて、M&Aに関する情報は積極的に集めておきたいものだ。

7つのいずれにしても、EC通販ビジネスの理解不足が原因となっている。準備段階で必要な知識を十分に身に付けておくことが大切だ。
なお、今回の項目には敢えて入れなかったが、遵法精神(コンプライアンス)も特に重要と思える。

 なお、以前に書いた自社が追い求める事業規模感も重要な要素と考える。会社経営ではあたり前であるが、万に一つの大成功モデルのような幻想を追いかけるより足元を照らした方が良いとも思える。

蛇足ながら(5)と(7)で指摘した人材の問題はEC通販ビジネスに限らず、新規事業の導入にはよく言われる課題であろう。ポイントはEC通販の専門家が担当に必要という意味ではなく、事業の目的や社内における位置付けを理解している人材が取り組むことで解決できる。

要は、意志決定できる経営者や事業責任者が自ら取り組むケースが成功理由となっており、撤退する企業の理由は明らかでなく、事業構造上、成功と思われるにもかかわらず中止していることも多いように感じる。